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 東の大陸ウェイティルは、“森と山の大陸”や“世界中の竜が集う大陸”ともしばしば呼ばれます。
 三つの大国と無数の小国で構成されていますが、ここでは小国の話は割愛します。
 主だった国は先述の三つ。ウェイティルの三強国と呼ばれる三国です。
 一つは、北のドラグナイツ帝国。一つは南東のフィブ神聖帝国。一つは南西のライ王国。この三つで大陸の八割を支配しています。
 また、ドラグナイツ帝国とフィブ神聖帝国は、南の大陸アークランドのミグとナギと同じように、戦争と冷戦を繰り返す関係です。
 元々は両国とも巨大な国ではありませんでした。それがここまで大きくなったのには訳があります。三国の文化も合わせて紹介しましょう。

 ドラグナイツ帝国は、アヴァロニア島から渡って来た一人の男が、一代で現在の形に近い所まで作り上げた国です。
 ウェイティル大陸は、世界中の竜が集まるとまで言われるほど、そこかしこに竜の棲家があります。
 竜にも知性がある竜とない竜が存在しますが、知性のある竜は誇り高く、自らより下位の存在が縄張りに入る事を許しません。つまり人間が縄張りに入ることを許さないという事です。知性のない竜は、縄張り云々よりも、人間をただの食料として見ています。
 そのために、この大陸で人間が暮らしていくのは容易ではありません。
 森を切り開くなどもってのほかで、竜の縄張りに入って木を切ろうものなら、集落をつくる暇もなく竜に襲われてしまいます。運良く竜の縄張りの外に集落を作れたり、寛大な竜に容認してもらおうとも、畑や道路なども作れないのであれば発展の道も閉ざされてしまいます。
 そんな人々を救ったのが、初代ドラグナイツ竜輝皇帝になる男でした。
 彼は、竜の言葉を理解し、喋る事が出来ました。彼は最も高貴なる竜に協力を要請し、ドラグナイツ建国を宣言しました。
 ドラグナイツは、竜を信仰するという特異な宗教を持っています。初代皇帝がどのように高貴なる竜と話をしたのかは不明ですが、恐らく最初は交渉のようなものだったのでしょう。人間の集落を作ることを容認し、協力する代わりに、竜族の絶対的な立場をより強固なものとするといったような。
 現にウェイティルの人々は、結集して竜と戦うという事を覚え始めていましたので、このまま何百年も経てば、下位の竜は人間によって殺され続ける、そう高貴なる竜は考えたのではないでしょうか。
 結果、ウェイティル北部に産声を上げたドラグナイツは、一代で巨大な国となり、帝国を名乗ります。竜を迫害する国を、人間と竜の力を持って滅ぼし併合し、竜の脅威に怯える国を、人間と竜の法を持って吸収しました。
 人間の法に従わない人間は人間が、竜の法に従わない竜は竜が、それぞれ罰する事によって、ドラグナイツは安定していきました。
 ドラグナイツの皇帝が全て竜の言葉を理解していたわけではありません。むしろほとんどの皇帝は竜の言葉を理解できない普通の人間でした。ドラグナイツ皇太子が皇帝になるには神竜と呼ばれる、最高位の竜に認められる必要があります。竜も古代種や上位種になると人語を喋る事ができるので、普通の皇帝でも彼らを介すことによって竜とコミュニケーションを取ることができたのです。竜語を理解し喋ることの出来る皇帝は“竜輝皇帝”と呼ばれ、例外なく青い髪と赤い目を持って生まれてきます。竜輝皇帝は身体能力が通常の人間より高く、知能も魔力も、また人格も、水準以上の能力を持っていました。よって、竜輝皇帝が在位中のドラグナイツは安定しているとされています。
 ある程度まで大きくなったドラグナイツは、それ以上国土を広げることにあまり積極的ではなくなりますが、徐々に国土は広くなっていき、本編の舞台である輝暦2900年代にはウェイティル大陸の4割以上を支配することになります。
 また、国軍は世界でも屈指と噂されています。要となるのが、世界に名高いドラグナイツ五騎士団。
 皇帝直属の竜牙、侵攻を主とする竜爪、国防を主とする竜麟、魔法部隊である竜炎、そして竜に騎乗して戦う竜翼。この五騎士団に加え、深い森と山が敵国の進軍を阻み、竜の縄張りに入ってしまったり竜を殺してしまったりすると、竜までもが参戦してくるという脅威に、ドラグナイツを攻める国はフィブを除いて、ほとんどありません。
 国教は具体的にはありませんが、ほとんどの国民が竜神グロウヴァイド信仰です。本来グロウヴァイドは竜に崇められる竜の神ですが、ドラグナイツに置いては神であり竜であるという事で人間にも信仰されています。

 南東の国・フィブ神聖帝国は、神聖皇帝を文字通り神と崇めるという、他国からは奇異に見える国です。
 神聖皇帝は時に、ドラグナイツの竜輝皇帝と比較されます。というのも、竜輝皇帝が竜語を理解する特殊な能力を持っているように、フィブの皇帝は必ず不思議な力を持っており、人間ではないと思われているからです。竜輝皇帝は何代かに一度という確立で誕生しますが、フィブの皇帝は必ず不思議な力を持って生まれるというのが、神聖視される大きな要因です。
 神聖皇帝は、王冠と一体化した仮面を身に着けているので、より神秘性が増しています。また、必ず“流水のキリスラシス”と名乗る剣士が皇帝を守護しています。
 フィブは皇帝を神と崇める事を他国にも強要します。フィブ皇帝以外の神を認めず、皇帝を唯一絶対の神と定めているため、宗教上の理由から他国と衝突を繰り返してきました。しかし、フィブは凄まじく強い国です。発達した魔法や武術に、強固な信仰が加わって、全兵が狂信兵といっても過言ではありません。
 別に残虐な教義があるのかといえばそうでもなく、むしろフィブ国民は豊かで平和です。フィブは竜をただの巨大な獣と見ており、そのためにドラグナイツとは相容れません。片や竜を神よりも上位に置いて崇める国、片や竜を畜生と定め唯一の神は自らの皇帝とする国。
 フィブの教義の押し付けに反発した国はドラグナイツと同盟を結んだり、ドラグナイツに併合され、ますます対立は深くなります。逆に、竜を嫌悪する国々はフィブと同盟を結んだり、フィブの教義に従い吸収され、更に対立は深くなります。
 結果、両国は完全に対立することになり、既に修復は不可能だとされています。
 本編の部隊となる2900年代では、ウェイティル大陸の3割を支配するようになっているフィブですが、国土でいうとドラグナイツよりも狭いです。しかしドラグナイツは国土こそ広くても、竜の縄張りがかなりの範囲を占めるために人間の文化圏が狭いのです。
 国教はフィブ神信仰。簡単に言うと皇帝信仰です。

 残る一国、南西の国・ライ王国は、一風変わった国です。
 アラニアの入口にある地図を見ていただけたら解りますが、アークランドとウェイティルの間に位置する諸島、あそこがライ王国の要となっています。
 ライは二大陸に渡って領土を持つ国で、両大陸の色を持った二面性のある国です。
 その顕著な例が、国軍である聖魔双刃騎団です。
 高潔を具現しているとされる聖刃団と、悪辣・卑劣を体現するという魔刃団という真逆の組織を一つに纏めています。
 本編の舞台となる輝暦2900年代の終盤には、十聖騎士“豪刃のガルフォーク”が双刃騎団長となっているために、両団とも上手く纏まっていますが、カリスマ性のない団長やどちらかに偏った団長だと、しばしば内紛が起こると事もあるようです。
 双刃騎団の歴史は2600年代終盤から2700年代の初頭からだと言われています。それまでは身分差や貧富の差でハッキリと分かれすぎていた国民を、初代団長の父が纏め上げようとし、その遺志を継いだ初代団長が組織化する事に成功したと語られています。
 ライの王は、一応世襲制ですが、王の能力が足りないとされると即刻、弾劾裁判が起こり、能力不足と判定されれば王を含めた一族の男性を全員処刑するという制度があるため、同じ一族や同じ血族が何代にも渡って国を治めるという事例は少ないです。
 この弾劾裁判には貴族や神官から2割、聖刃団や魔刃団から3割、民衆から5割の計101〜111名により4日かけて行われます。
 この弾劾裁判で王が不適合だとされると、その後3日かけて、一族の男性の助命裁判が行われます。
 助命裁判は弾劾裁判に参加していない人の中から、貴族と神官が20名、双刃騎団から30名、民衆から50名が参加して判断を下します。命を救われた男性には王位継承権を請求する資格が与えられますが、それには王位継承裁判が行われます。これに負けますと、以後5年は王位継承権を請求することを禁じられます。また、王の在位中に王位継承裁判を起こす事も可能ですが、それは同時に弾劾裁判を誘発します。王位継承権の請求のために弾劾裁判を起こした者が敗れると、その者には王の裁量で禁固ないし処刑が言い渡されます。過去にはこの王位継承裁判による弾劾裁判に勝ち続け、20人もの男性を禁固した“収集王”と皮肉を持って呼ばれる王もいました。
 王位継承権を請求できるのは12歳以上の男性のみで、女性にはその権利が与えられません。その代わりに、王位失脚の際の処刑対象からも外されますし、その他の罪も男性よりも軽減されます。
 古くから、アークランドにおいてはナギと、ウェイティルにおいてはフィブなどと戦って領土を切り開いてきた国です。男は戦って国を広げ、守るのが美とされ、女は子を産み、血と畑を守るのが美だという価値観なので、王にはその単純な、しかしだからこそ期待に応えるのが難しい責務が背負わされます。
 貴族や上流階級と、中流や貧民層はハッキリと分かれますが、前者が聖刃団のような、後者が魔刃団のような心根を持っているかといえばそうではありません。貧しくとも高潔な心根を持ち、周囲の人間に拝みこまれて王位請求をして王になった者もいれば、貴族という地位に奢り高ぶったせいで魔刃団員の手にかかって暗殺された者もいます。
 ライとは、危ういバランスで、違う思想を持った国民たちが一緒に暮らしている、そういった国です。
 そのため当然ながら、内乱も起こり、それにつけこまれて国自体が滅びかけた事も少なくありません。
 国教は黒手神信仰。"弾劾と止(とど)めの神"、黒い手のブラフィブラを崇めています。ライ国民が崇めるブラフィブラは、"慈愛と癒しの神"白手神ローフォの兄弟神であるため、ローフォを信仰するミグ王国とも友好的です。