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 南の大陸アークランドは全ての大陸の中で、最も歴史的な大陸です。

 古代記にはアーク王国という巨大な国が存在しました。これを俗に古代アークと言います。
 古代アークは神学と魔道を極めた国で、アークランド大陸全土が一つの国という、常軌を逸する大国でした。
 しかし、アーク人は進みすぎた神学と魔道のせいで、奢り高ぶり、自分たちは神に最も近い民だと自負するようになります。その結果、神々の逆鱗に触れる事件が起こり、古代アークは滅んでしまいます。当時の首都があった周囲は消し飛び、海になったと伝えられています。これにより、アカソー島とアークランドは、古代記には繋がっていたのではないかという学説も存在します。

 古代アークが滅んだのち、再び同じアークを名乗る国が立ち上がり、それと時を前後して法雅院神国(ホウガインシンコク)という国が建国されます。両国は、元は同じ国民でしたが、人種や思想、望む文化の違いで別の国に分かれてしまったのです。しかし両国間が険悪かといえばまったくの逆で、同じ「神による滅び」を経験し、立ち上がった同胞として、強固な絆を持っていました。
 アーク王国と法雅院神国は7:3ほどの比率でアークランドを支配していました。しかし……
 ある伝承を書き出してみましょう。

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今は昔、北の国と東の国が、一つだった頃のこと
北に愚かな王が居た
名を、御言尊(ミコトソン)という
東の賢者は、愚かな王を諌めた
王は怒り、賢者を殺した
賢者は笑って死んでいった
王はなぜ笑うのかがわからなんだ
しばらく経ち、東の国で謀反が起こった
賢者の息子が、王に叛いた
名を、那吹義牙(ナフウギガ)という
王は負けた
死後、王は名を改められた
名を、御愚という
そして、一つの国は、御愚と那義に分かれた
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 この伝承が真実かはわかりませんが、物語の舞台となる輝暦2900年代終盤、アークランド大陸は四つの国に分かれています。
 一つは法雅院神国の末裔、神(ジン)王国、一つは東の大陸からの移民が作った雷(ライ)王国。残る二つは、アーク王国が二つに分かれたミグ王国とナギ王国です。

 ミグとナギは果てることのない冷戦と戦争を繰り返しています。
 その発端が、先述の伝承だと言われています。この伝承は、神王国で語られているものです。
 ここで、もう一つの別の伝承を書き出してみましょう。
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遥かなる昨日、我らの先祖に知恵ある者がいた
圧政に苦しむ民を哀れに思った知恵ある者は、王を諌めようとした
王は怒り、知恵ある者を殺した
民は怒った
知恵ある者の息子は、力ある者となった
力ある者は王と戦い、国中を開放した
そして、我が国は解放された、真に自由な国となった
初代の那義王陛下は、そうして我らの王となられた
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 これはナギ王国の側に語られている、アーク分裂の伝承です。
 現在ではアーク最終王、御言尊が死後、民衆から名を「御愚」と改められたのがミグ王国の由来で、アークを開放した那吹義牙から名をとったのがナギ王国の由来だと言われています。現に、ナギ王国は那義王国と書かれますので、信憑性は高いでしょう。

 国土の配置としては、大陸の中心で線を引き、西半分を上下に割り、北がミグで南がジン。東半分を縦に割り、西がナギで東がライというふうになっています。つまりは、大陸の中心部にはナギがくるわけですね。

 アークランド大陸は、分裂したとはいえ高い文化水準と国民性を持続しており、各国それぞれが誇り高い、伝統を重んじる民族性です。

 本編の中でも重要な舞台であるミグ王国は、アーク王国の面影を一番色濃く受け継いだ大国です。
 貴族制を持っており、最上位は王です。具体的には王>大公>王守公>公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵の順番。准男爵や騎士爵はありません。また、大公は王族のみ継承可能で、王守公以外は全て世襲制です。
 他国にない王守公という位はその名の通り王を守る公爵という位置付けで、国王が直接任命し、任命した国王が崩御するか任命された王守公が死ぬまでの限定された期間だけ王族を除く全国民の最上位に立つことが出来ます。王守公は王城の周囲にある王守公専用の居城区に住む事を強制されますが、家族や王守公退任後のための家は持っていて構いません。王守公は王が許せば国政にも参加出来るため、ただの名誉職ではなくれっきとした権力も持っています。
 貴族と平民という区切りはありますが、平民でも王に選ばれれば王守公になれるという点と、国全体が豊かで歴史を持っているため、平民でも下級貴族以上の影響力を持っているというケースも多々あります。
 しかし、歴史が古く、アークの血を色濃く受け継いでいるという事に誇りを持っているために、移民や混血に対する多少の差別があります。
 本編の舞台である2900年代終盤では、同じアークの末裔であるナギに対する反発が凄まじく、ナギからの移民やナギ人と結婚した人に対する差別は度が過ぎる事がしばしばあります。
 とはいえ、基本的には誇りに見合った行動を取ろうとする、一種貴族的な気質を持っているので、2900年代のヒステリックな状態は本来のミグの姿ではありません。
 世界屈指の魔法技術を持ち、それを流用して様々な道具に魔法を付加したり、魔法兵器を作っています。一般的な魔法技術では中央大陸にある学術都市国家サウント市国と、ハイドランド法国に並び、世界でも三本の指に入ります。ミグの場合は魔法技術に加えて、古代アークやアーク王国から受け継がれた知識や技術といった遺産があるため、国力も優れています。
 また、何故かミグには世界的に見ても屈指の英傑が集う傾向があり、古代王国の秘宝を隠し持っているという不安もあってか、他国から「何かがある」と常に警戒されています。2900年代終盤までに2度行われた大陸大戦でも、切っ掛けはミグに対する侵攻でした。
 国軍は四団と呼ばれる組織で分担しており、市中警備などの治安維持には保安団、市外警備や討伐や戦争などには兵士団、兵士団のみでは力不足な場合と要所の防衛には騎士団、諜報や親征など王からの命のみで動くエリート集団の親衛騎団が、随時自らの任務の範囲内で動きます。本編で登場している十聖騎士"黄金の剣"ジークフリードは、このミグ親衛騎団の長でもあります。
 国教は"慈愛と癒しの神"白手神ローフォを信仰しています。ローフォは"弾劾と止めの神"黒手神ブラフィブラの兄弟神であるため、黒手神信仰のライ王国とミグ王国も友好的な関係です。

 ジン王国はミグ王国と永世友好を唱える国で、自然との共存を基本とし、精神性を大事にする気質を持っています。国民性はストイックの一言に尽き、便利であろうとも自然を敬わない技術や魔法は受け入れません。
 ミグとの国境の半分をおおう大森林とも共生しており、森に生きるエルフとも共生しているため、森に近い集落ではハーフエルフを見かけることも良くあります。
 古来よりジンは他国に比べて"火の国の民"と呼ばれる人々の出現率が高く、彼らから伝えられた文字や技術を受け入れ、果ては文化や思想までジン流のものと折衷しながら受け入れました。古代アークが滅びた後に、復興したアーク王国と法雅院神国に分かれた理由も、この"火の国の民"からもたらされた文化や思想が、アーク王国の目指すそれと違うからでした。
 脈々と受け継がれてきた文化と思想はストイックな国民性により揺らぐことなく研ぎ澄まされ、千年以上経っても揺らぎません。
 万物には神や精霊が宿り、全てのものには命がある。人間もその命の一つに過ぎず、自然の一部に過ぎない。そういった考え方だからこそ、エルフとの共生も可能だったのでしょう。
 ジンは一般的に使われる魔法の技術は極度に低いのですが、その代わり、精霊魔法などの自然界に存在する力を利用するタイプの魔法技術には目を見張るものがあります。加えて、ジンの人間にしか使うことの出来ない独自の"天風"という魔法技術を持っています。
 そんなジン王国も何度も戦争を経験しています。そのほとんどは大陸大戦やナギ王国との戦争といった、ミグ王国が狙われた戦で、ジン王国自体が狙われたり、自ら攻めたりという例は極端に少ないです。
 ジンは兵の全てが一騎当千と言われており、その一騎当千の兵全てが死を恐れない相打ち覚悟の侍だと他大陸にまで伝わっています。そう言われる一因となっているのが、彼らの武装です。
 ジンの通常武装は戦用の"衣装"と刀と呼ばれる凄まじい切れ味の剣のみです。つまり、ほとんど防具を着けることがないのです。相手を一撃で殺すか、自分が一撃で殺されるか、そういった"覚悟"を持った兵の集団なのですが、これには"覚悟"以外の理由も存在します。それが、"天風"と精霊魔法。
 ジンは自然崇拝の中でも風を重要視しているため、風の精霊の加護が厚い国です。風の精霊の加護と独自の魔法技術"天風"のために、物理的な飛び道具を無効化できるのです。一応小競り合い以外での長期戦となる場合や敵に魔法使いが多い場合には、鉄をあまり用いない軽い防具を身につけます。
 国軍は神天風士団。侍衆や歩兵団もありますが、名実共に主力なのは天風士団です。彼らは風に乗って音もなく戦場の中枢に現れ、飛び道具をものともせずに一陣の風のように戦場を吹き抜けます。本編2900年代終盤の長は中臣巽(ナカオミノタツミ)と"四神位"、玄武の位・水無風応牙(ミナカゼノオウガ)、白虎の位・森白王火(モリシラノオウホ)、青龍の位・立宮多問(タツミヤノタモン)、朱雀の位・中臣黄気(ナカオミノコウキ)。
 国教は特に無く、アニミズムに近い自然や万物に神や精霊が宿っているという考え方が多いため、自然崇拝に近い。ただし、他国と同じような神を信じる人も多く、信仰は自由です。

 ナギ王国は、東の大陸にある(少々カルト的な)強国フィブ神聖帝国と主従同盟を結んでおり、その影響もあってか他の三国とは相容れません。
 ミグとは建国以来――というよりも建国前からの敵対関係で、建国以来ずっと戦争→小康→冷戦→戦争という繰り返しを続けています。冷戦の時代が数十年続く事もあり、和平を結んだ事も何度かありましたが長続きはせず、戦争のみが続くといった状態です。
 古代アークの末裔という点ではミグとまったく同じなのですが、復興したアーク王国になった後に愚王・御言尊の悪政に異を唱えて反発した事が切っ掛けで分裂してしまいました。以後現在に至るまでミグとは犬猿の仲ですが、輝暦2900年代終盤に至るまでの間に、ナギ王国のやり方に疑問を持った国民や東の大陸からの移民などが力を付けてしまい、国の西端に新興国ライが誕生してしまいます。
 その後、ミグ&ジンとの戦争にライが呼応して挟撃を仕掛けてくる事が多くなり、最終的には国土の半分をライに奪われてしまいます。その結果、2800年代中盤のナギ王は東の大陸の大国フィブに助力を願い、ライに対して逆にフィブとの大陸間の挟撃を行い、均衡状態になりました。
 2900年代も半ばを過ぎた頃にベース王子が王位を簒奪し、フィブとの結びつきを更に強くしました。これにより、2900年代終盤は再び戦乱の時代を迎えようとしています。
 国軍はベース王以前はアーク正騎士団。ベース王以後はナギ魔鬼死団。魔鬼死団は、魔道士による魔道衆、重騎士にる重鬼衆、機動性の高い暗殺集団による豪死衆の三つからなり、けれん味の利いた名前と各衆ごとにデザインの違う仮面や覆面を付けることにより、ベース王が謎の多いフィブと結びついたという得体の知れない恐怖を増幅しています。無論、名前だけではなく、その力量はライなどとの小競り合いでも証明されており、世界一高名な英雄でありミグ人の誇りであった"聖竜の騎士"ラカン・サガを暗殺したとのも魔鬼死団だと噂されています。。
 国教はベース王以前は白手神ローフォ、黒手神ブラフィブラ、作薬神コヨを信仰。ベース王以後では国教が廃止されましたが、これはフィブ神聖帝国への恭順のためだとされています。

 ライ王国は元々が東の大陸からの移民だったのですが、なんと東の大陸にも飛び地で広大な領土を持っています。この辺りは東の大陸の説明で話しますので割愛します。

 この大陸の国々は、他大陸の国々に恐れられています。
 基本的に他の大陸の国々は、ミグとナギが和平したり、どちらかが滅んだりした場合に、再びアーク王国が出来るのを恐れているのでしょう。
 それは、「アーク王国」を恐れているというのではなく、強大な魔法と兵を持って、自分たちの国に侵略してきたら、どうやって防げばいいのかという恐れでもあります。なので、他の大陸からすれば、ミグとナギにはずっと争い続けてもらい、自分たちの大陸の中にだけ目を向けておいて欲しいのです。そのために、各国ともなにやら暗躍しているという噂もあります。