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 中央大陸アラニスは、その名の通り世界の中央に位置する大陸です。
 無数の国があり、紛争や戦争も国の数だけあります。そのため、国が潰れては興り、興っては潰れ、領土も目まぐるしく変わっています。

 この大陸一番の特徴は他大陸にはいない4人の"魔王"の存在です。
 俗に"アラニスの四魔王"と呼ばれる彼らは、それぞれ大陸の東西南北に座し、何人も寄せ付けない"魔王の領域"を持っています。彼らの存在は有史以来認められており、代替わりすることもなく、領域を狭めることも広げることもなく、ただその広大な領域に鎮座するだけでした。
 アラニスの人々の歴史は魔王との戦いの歴史でもあります。東西南北の諸国は古来より、あまりにも広大な魔王の領域を奪おうと、また人々の脅威となる存在を排除しようと、魔王討伐を謳って軍を動かしました。そのたびに結果は必ず壊滅の二文字だけでした。その状況が動いたのは、輝暦2900年に入ってからでした。
 2900年代中盤、アラニスのほとんどを領土とする世界最大の王国ファウが、持てる全ての軍と友好国は元より敵対する国からも軍を集め、王自らが国の貴族とその子弟を率いて30万人を越える大軍を持って"東の魔王"の領域へ侵攻したのです。
 19万人もの死者を出し、ファウ王国の貴族のほとんどが潰え、最終王アーム四世までもが斃れましたが、"東の魔王"は敗れ、魔王の領域は人間の手に渡ったのでした。この一件でファウ王国は瓦解しかけますが、アーム四世は死の間際に魔王に止めを刺した若き上級騎士シルザードに全てを托します。こうして英雄王キース・シルザードを頂点に抱く新興国シルザードが誕生しました。シルザードは武人であるだけでなく、賢人でもあり、自分では広大すぎるファウの領土を維持した上で国軍のほとんどを失った状態で他国の侵攻に耐えるのは無理だとして英断を下します。旧ファウ王国の領土を魔王討伐に協力した各国に分け与え、友好条約を結んだのです。領土を切り崩した後でも、シルザード王国は広大な領地を持っており、しかも国力の回復に必要な地域は必要最小限しか他国に分け与えなかったために、他の国と並ぶ速度で疲弊しきった国を復興させました。
 その後、英雄王シルザードは十聖騎士"銀の剣"として世界屈指の英雄となったのでした。
 シルザード王国の国軍は銀騎士団。国教は努力と向上の神であり、戦いと知力の神でもある、戦神帝ヴィズル信仰。シルザードに限ったことではありませんが、大洋シーライズ沿岸の漁村などでは海神フィラを信仰することが多く、国もそれを禁止はしていません。特にシルザード王国は、国教を定めてはいますが信仰の自由を認めているという変わった国です。これは元となったファウが広大だったために、一つの宗教で縛るとそれが原因で争いが起きるからです。

 この他に中央大陸の中央地方、つまり魔王からの影響が少ない地方では、歴史の長い国がいくつも残っています。
 その中で最大の国が、ハイドランド法国。
 大森林によってファウ王国の侵攻さえも凌ぎきったこの国は、世界で三本の指に入る卓越した魔法技術を持っています。
 法国の名前の通り、宗教と法律によって厳しく管理された国家で、王都ハイランドは"光と朝と成長の女神"光神ビルフィアの聖地でもあります。
 元々のハイドランドは"火の国の民"が集まって作られたと言われており、高潔の大地(ハイランド)と呼ばれる円錐型の高地地方と、それを取り囲む法の大地(ロウランド)と呼ばれるリング状の低地地方からなっており、堅地神ラウホルンを信仰する荒れ地の国家でした。しかし耕作に適さない土地であったため国力は低く、地形的に防衛力は高いものの侵略価値がないせいでどこも攻めてこないという小国でした。
 日照りによる大干ばつが続いたある年に、当時のハイドランド国王は突如天啓が下ったと宣言して国教を光神ビルフィアに変え、国名をハイドランド法国に改めました。王は強力は法で国民全てを縛りましたが、その法の中にあった"富める者と高貴な者は貧しい者に施しを与えよ"というものを王自身が守り、自らの蓄え全てを国民に分け与えて餓死します。王は死の間際までビルフィアに祈り続け、国民達は王の姿に胸を打たれて法を守りました。初代法王が崩御した翌日、空から"石"と呼ばれる神の住処が落ちてきます。"石"の大きさはハイランド地方よりも大きく、ハイランド中央にそびえ立つハイランド山とその頂上にある王の居城を押しつぶしました。その"石"は山にぶつかった中央部にポッカリと穴を空けたまま、空中に静止します。ドーナツ状になった"石"はその外周から大量の海水を降らせました。水は尽きることなく降り続け、千年以上経った今も一地方丸ごとを囲むように落ちる世界一の大瀑布として存在します。
 ハイドランドの人々はその"石"を空の海と呼び、空の海から降り注いだ水が高地地方と低地地方の狭間に溜まって出来た海を陸の海と呼びました。塩分を含んだ海水であるにもかかわらず、ハイドランドの海水は植物を育て、また大気に満ちた湿度によって植物も豊富な国となりました。これにより、他国に取っても侵略価値が生まれてしまったのですが、元々の防衛に適した高地地方と低地地方に加えて、高地地方を囲む永遠の滝によって難攻不落の王都が出来上がってしまいました。
 当初はハイランドとロウランドの行き来さえ大瀑布に阻まれていたのですが、初代法王の死後、突如としてハイドランドの人々は高い魔力と魔法に対する直感力を得て、空の海出現から五年も経たないうちに、滝の中に道を造る魔法を編み出し、行き来を可能としました。
 この伝説から、ハイドランドは自らを法で律することに揺らぎのない確信と誇りを持っています。ハイドランドの人々に加護を与えたのが本当に光神ビルフィアかどうかは不明ですが、大いなる存在からの加護があったことは間違いありません。
 なお、一国に匹敵する程の大きさで空中に浮かぶ空の海によって、天陽が遮られていますが、昼間の間は空の海の底が暖かく発光するため、他国と比べてもむしろ明るいぐらいです。
 国軍は護法白騎士団。ハイドランド聖騎士団とも呼ばれます。騎士全てが魔法付加された純白の鎧を身につけた魔法騎士で構成されています。
 国教は光神ビルフィアを信仰するビルフィアス教。他の神の中では、弾劾の神である黒手神ブラフィブラ、魔法と魔力の神である魔神ダースフェル、慈愛の神である白手神ローフォ、ローフォの妻である作薬神コヨ、ローフォとコヨの師である学問の神ウォムを容認しています。

 小国ながらも千年近い歴史を持っている国もあります。
 ハイドランドから大森林を挟んだ東の永世中立国、学術都市サウント市国です。
 世界全ての知識を集めているとされ、古代からの書物さえ現存すると噂されます。国と呼ぶにも怪しい小さな小さな国ですが、魔法技術は世界屈指の大国であるミグ王国とハイドランド法国に並んで世界で三本の指に入ります。
 世界中から知識が集まっているだけあって、様々な用兵術や剣技なども伝えられており、騎士や傭兵が集う都市国家でもあります。
 永世中立と名乗っていても攻め込まれる事はありましたが、ハイドランドの庇護や、各国の知識人などによる牽制などで致命的な戦は回避してきました。
 片手で数えられるほどの回数は、軍が実際にサウントまで押し寄せた事がありました。しかしその都度サウントに集っていた傭兵や魔法使いによってはね除けられました。最後に確認されている侵攻では、偶然サウントに居合わせた大魔導師、聖セル・ギ・ルディアの禁呪によって一軍を消し飛ばされるという事件があり、それ以降攻め込まれた事はありません。
 様々な書物が揃ったこの国には、精霊の言葉や神の言葉、異世界の言葉まで記した本などもありますが、一度たりとも火事による損失などを経験していません。一度は国内で神になろうと暴走した魔導師が禁呪を発動させた事もありましたが、名も無き傭兵達によって食い止められ、その時の被害でも希少な本は一冊たりとも失われませんでした。
 こういった事から、サウント市国には知恵と知識と探求の神、学神ウォムが"住んでいる"と言われています。
 国軍は存在せず、魔術師ギルドや傭兵ギルドなどが自衛を行っています。
 国教も存在しません。国家の性質上実質的に学神ウォム信仰ですが、世界中から知識を集めているだけあって全ての宗教に寛容です。

 本編に関わりの深い国ですと、南端の小国フェントスとその北の隣国ララントスがあります。
 フェントスは"木の多い国"の名の通り、森の国です。資源は木材のみで、多種多様な木材を輸出するために自然と造船技術も発達していきました。資源こそ少ないものの、中央大陸の南端の一つという事で、アカソー島やミグ王国との交易も行われています。
 また、フェントス大国からの侵略や大国同士の戦争に巻き込まれたりする事も多いのですが、そのせいか内外から傭兵が集まり、いつしか傭兵王国と呼ばれるようになり、現在では傭兵ギルドの本部を運営するまでになっています。
 国軍は正式には存在せず、国防は傭兵ギルドが選りすぐりの傭兵を常に一定数雇った傭兵騎士団が担当しています。歴代傭兵騎士団で最も高名なのは輝暦2900年代中盤に現れた"暁の剣聖"ヴァンドルフで、北東の隣国ランルファの奇襲によって国境警備中の傭兵達が壊滅したその晩に、単騎で敵部隊中枢に斬り込み、明け方にフェントスの援軍が駆けつけた時にはドルファ軍は崩壊し、傷だらけのヴァンドルフはそのまま援軍と共に追撃に参加してドルファ軍を完全に撃退したという逸話が残っています。
 国教も正式には存在しませんが、"勝利と望みの神"戦神アルドノヴァを信仰しています。

 ララントスは"硬い木の国"の名を持つ、山岳国家です。国土のほとんどが岩山という、本来植物の育ちにくい環境ですが、ララの木と呼ばれる鉄のように硬い木をはじめとする環境に適応した植物が育っています。
 国土も硬ければ木も硬く、獣も硬いのが特徴で、どう猛な上に矢や粗雑な刃を通さない毛皮や鱗を持った動物が多いのも特徴です。こういった木も獣もララントスにしか存在しないため、それを加工したり輸出するのが主産業です。
 南の隣国フェントスと北西の隣国フェルファとは兄弟国のような関係で、特にフェントスとは建国以来常に手を取り合って来ました。
 ララの木から作られる鎧はフェントスの傭兵達にも愛用されており、中でも最高級の鎧になると、木製なのに鋼鉄並の堅さで火を通さず、しかし木製だから軽く水に浮くという、戦士にとっては夢のような逸品として知られています。一人一人の体格に合わせたオーダーメイドで作るため、値段は最高級の板金鎧の五倍以上するという話です。
 古くから獣を狩るにもララの木を切るにも剣ではまったく役に立たないため、自然と斧が発達しており、ララントス人ならば物心付いたときには斧を使えるようになっているという程、斧が生活に浸透しています。
 国軍は三斧兵団。これは、鉄の盾と用途別に使い分ける三種類の斧を持っている兵士団で、日頃から硬い物ばかりを叩き斬っている彼らは、敵国の板金鎧を相手にする方が楽だと言い張ります。
 国教は"防衛と守護と荒廃の神"であり"地の精霊神"でもある、堅地神ラウホルン信仰。