なんでもレビュー

武装錬金//ダブルスラッシュ
出版:ジャンプJブックス(集英社) 著:黒崎薫、和月伸宏 定価:648円+税

 漫画「武装錬金(レビュー)」のノベライズ作品。
 武装錬金の最終第10巻「ピリオド」に掲載されている書き下ろし作品「武装錬金アフター」よりも後のお話だが、話の本筋は2人の戦士長と戦士千歳ら、かつて"照星部隊"と呼ばれていた先人たちが唯一失敗した7年前の任務についてである。
 タイトルの「武装錬金//(ダブルスラッシュ)」は、原作10巻に続く11巻というイメージで名付けられたようだ。そのため、本の装丁がジャンプコミックスに限りなく近く、パッと見ただけでは本当に11巻に見えるようになっている。
 つまり、原作を知らない人が読む作品ではない。
 なんせ「武装錬金アフター」の最後のページから直接続いているぐらいだ。「原作を本誌で読んでいた」、「原作の『ファイナル』も『ピリオド』も赤マルジャンプでチェックした」という程度のファンではなく、「原作最終刊もゲットした」という層のみにターゲットをしぼりきっていると考えた方が良い。

 ありえない評価の仕方だが、原作をまったく考慮せずに単品の小説として見た場合の質は決して高くない。地の文章に擬音を入れたり、台詞回しが漫画的だったりするし、読み口も当然ながら薄い。しかし、これは先ほども書いたように「原作をコミックスの書き下ろし作品までチェックした」というコアなファン層に向けて書かれた作品なので、こういった評価は論外である。
 これはあくまでも漫画のノベライズ。
 文章を読みながら、読者が頭の中で和月伸宏の絵を浮かべ、コマ割りや背景、擬音やちょっとした表情なども、全て思い浮かべて楽しむ。そういった作品だ。
 確かにもう少し小説的な読み応えは欲しいが、漫画版とテンションの格差が無いのでこのような書き方(文の砕き方)もありだろう。

 著者は原作のストーリー協力にクレジットされている黒崎薫。大変仲が良いらしく、漫画版から和月伸宏のサポートをしてきただけはあって、「これが11巻です」と言われても「確かに」と答えるしかないほど、ちゃんと「武装錬金」をしている。

 「武装錬金アフター」では斗貴子の顔の傷が付いた経緯が語られるが、このダブルスラッシュでは斗貴子が戦士となった切っ掛けであり、ブラボーと火渡の両戦士長が今のような人格になった原因でもある"7年前の事件"が当人達の口から語られる。
 7年前の、まだ普通の少女だった斗貴子(なぜ本編の回想シーンで着物姿だったのかもわかる)とその家族たち、彼女が全てのホムンクルスを憎むようになった訳、ブラボーがなぜ本名を捨て今の名を名乗るのかといった、漫画本編では語られなかった事が次々と明らかになる。

 漫画版をコミックス全巻揃えるようなファンならば絶対にこれも読んでおいた方が良い。全10巻と//で、漫画版がより深くなるし、//も深く楽しめる。そんなノベライズ作品に仕上がっている。全てを読み終えると、確かにこの作品は11巻目だなと納得できるだろう。
 願わくばあとがき筆談で冗談交じりに言っている、12巻目(/Ζ-スラッシュゼータ)、13巻目(/З-スラッシュゼー)、14巻目(/Ч-スラッシュチュー)も期待したいものだ。

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