なんでもレビュー
裏庭 |
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出版:新潮文庫 | 著:梨木香歩 | 定価:620円 |
少女が異世界へ迷い込む、ハイファンタジー型の児童文学。 捨てられた古い洋館と、そこから繋がる不思議な"裏庭"の世界。それにまつわる人々の後悔や傷や希望を描いた作品。ファンタジーとも児童文学とも言い難い、妙な雰囲気の極めて女性的な小説。 主人公の少女、照美が住む町には怪談話を持つ一件の廃屋がある。ずっと昔にバーンズという英国人が住んでいた洋館だ。 照美の両親はその町で小さなレストランを開いている。彼女は共働きの両親に代わって、ずっと知的障害を持つ双子の弟を世話してきた。 しかしある日、洋館に忍び込んで遊んでいた時に弟が池に落ちて溺死してしまう。 弟が死んでから、両親はその事実から目をそらすように仕事に打ち込み、照美は寂しさを押し隠す事となる。 そんな照美が楽しみだったのは、友達のおじいちゃんが話してくれる昔話だった。その中に、バーンズ屋敷の裏庭の話があった。 おじいちゃんが少年だった頃、まだ戦争が始まる前の事、おじいちゃんはバーンズ屋敷によく遊びに行っていた。その当時バーンズ屋敷には英国人の一家が住んでおり、おじいちゃんは二人の娘のうち、長女のレイチェルと仲良くなり、バーンズ家の秘密"裏庭"を教えて貰う。 弟が死んで6年が過ぎたある日、照美は英会話教室をサボってバーンズ屋敷に行ってみた。 そこにあったのは、おじいちゃんが話した"裏庭"に出てきた大きな鏡。何気なくその枠を撫でた照美に不思議な声が聞こえた。 「フーアーユー?」 照美は英会話教室を思い出し、自分の名前を答えた。「テ・ル・ミィ」と。するとまた声が聞こえた「アイ・テル・ユー」 気づけば、照美は不思議な"裏庭"の世界にいた……。 異世界パートの読感としては、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」に近い。 私は、児童文学とは子供が読んでもストーリーラインがきちんと楽しめて、成長して読解力がついてから読んだら幼い頃には解らなかった深いテーマが流れているものだと認識している。エンデの「はてしない物語」が好例だろう。 しかし、この小説を児童文学と呼んで良いものかは判断に困る。確かに第一回児童文学ファンタジー大賞の受賞作ではあるのだが、これを子供が読んで面白いかというと、恐らく理解できないのではないか。 コアターゲットは、昔から児童文学を読んできた女性だろう。そういった人が中学生以上になってから読むと、恐らくとてもはまる。 基本的にファンタジーの形を取っているが、根本は照美とその母、おじいちゃんやレイチェルの過去への後悔と僅かな成長をメインに書いている。 おそらく作者は多分、ファンタジーではなく、親から受けたトラウマや過去の後悔に対する、ほんの少しのちょっとした成長と、それに付随するこれからの変化というものを書きたかったのだろう。そのせいか、序盤の凄まじい勢いに比べて中盤以降の失速が著しい。無理にファンタジーの形にしたせいで、作者が目的を見失ってしまった感がある。 ファンタジー好きとしてはオススメできないが悪い作品ではない。 先述のコアターゲットに当てはまる方や、それに近い方には面白いだろう。 |