真・なんでもレビュー

天帝妖狐
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出版:集英社文庫 著:乙一 定価:438円+税

 表題作のほかに、短編「A MASKED BALL ア マスクド ボール ――及びトイレのタバコさんの出現と消失――」を収録。
 まずはじめに、集英社新書版の「天帝妖狐」と、この集英社文庫版の「天帝妖狐」では大幅に修正が入っている。よって、これはあくまでも文庫版のレビューであることを明記しておく。

 まずタバコさんから行きましょう。
 高校の忘れられた男子便所の個室、その壁に書かれた「ラクガキスルベカラズ」というラクガキと、それに対する人々の反応から話は起こる。違う時間帯に同じ個室を使っている人々が、便所のラクガキで交流を持つのだが、次第に一人の人物が暴走しはじめる。
 ホラー風味の短編なのだが、根底にあるコメディっぽさは何なんだろう?(笑)
 このタイトルの付け方も妙で面白い。短編と言っても100P以上あるので、そこそこの読み応えはある。また、この短編が収録されることにより、後に続く表題作が際立っている。

 そして、「天帝妖狐」
 切なく悲しい物語。
 死を失った男の孤独、通常の生への渇望、絶望、それらがとても心に訴えて来る。
 夜木少年は一人で狐狗狸さんをした。『早苗』という存在がそれに応えた。『早苗』は友人の死を予言した。怖くなった少年は、自らの寿命を聞いた。あと四年で、苦しんで死ぬと言われた。少年は、『早苗』に死にたくないと言った。少年は、死を失った。傷を負うたびに、体が人間のものではない、何か別のモノに変貌していった。
 そんな夜木が成長し、行き着いた町での人々との交流と別れ、それを描いた作品である。
 作中の時代としては昭和初期くらいなのだが、その時代特有の暗さが、作品の暗さと相まっている。
 しっとりとした、存在感のあるお話。

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