真・なんでもレビュー

赤城山卓球場に歌声は響く
出版:ファミ通文庫(エンターブレイン) 著:野村美月 定価:672円+税

 第三回「えんため大賞」小説部門最優秀賞受賞作品。
 友人にしてフリーシナリオライターの神無月ニトロ氏に、激しく推薦を受けて貸していただいた作品。
 ページをめくった瞬間、「……地雷?」と思ったくらい、ハードボイルドとSFを好む神無月氏の趣向からはかけ離れた書き出し文だった。
 背表紙の文からして不思議な世界をかもし出している。抜粋してみよう。

「あなたは、卓球の神さまを知っていますか? あなたは、赤城山の卓球場を知っていますか? そして――、あなたの、湯のみに白い玉は入っていませんか? 行方不明の親友・華代ちゃんを捜して群馬を訪れた朝香たち女子大生七人組が遭遇する、驚天動地の事態とは!?」

 まあ、読み始めるまでは、神無月氏にかつがれたのかと思いましたよ。
 普段の私ならば絶対読まないたぐいの小説なんですが、それでも結構高評価。
 キャラが10人も出てくるのですが、通常、賞に応募する小説でキャラを10人も設定するのは結構無茶。10人全員がメインに食い込んでくるわけじゃないけど、それでも脇役に徹してるわけでもない。
 なんというか、独特の雰囲気を持った作品だ。上手いとか下手とかではなく、読者に次のページをめくらせる小説だ、といっても解りにくいだろうが。
 いたってマンガ的な小説で、マンガやアニメの好きな人だとすんなり入り込めるだろう。
 話の構造はかなり単純だし、完全にライトノベルの文体で、あっさりと先も読めたりするのだが、読んでて不快感を感じることが無いのは珍しい。
 話の作り自体がマンガ・アニメ的なのだが、キャラクターは更にそうである。多少ギャルゲーチックなキャラ作りだとは思うのだが、著者が女性なので、ギャルゲー的なのを狙っているのではないと思う。いや、狙ってるかも知れないが。
 そう考えると、マンガ・アニメ・ギャルゲーが好きな人にはツボじゃないかな? って感じである。たいしてそれらが好きじゃない人でも、楽しく読めるだろう。
 キャラの爽やかさ、作風の爽やかさ、読後の爽やかさ、とにかく初志貫徹で爽やかな作品だった。
 設定もなかなか破天荒な面白さを持っている。
 惜しむらくは、やっぱりキャラが多すぎて、みんなが揃うシーンになると、ごちゃごちゃしてしまっていることか。まあ、その辺はデビュー作なのでしかたないっちゃ、しかたがないかもしれない。これからに期待したい。

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