なんでもレビュー
メフィストの魔弾 |
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出版:トクマ・ノベルズEdge(徳間書店) | 著:嬉野秋彦 | 定価:819円+税 |
主人公はボーイズラブ文庫の編集者、明神ひさぎ(♂)。彼は有能な編集者だったが、それとは違うもう一つの顔があった。夜な夜な出没する美貌の暗殺者、その正体こそ女装したひさぎだった。 同じ頃、死を目前にした老いた傑物の前に、神の奇跡を起こすと称する謎の男女が現れ、言葉通りに老人を回復させていた。老人が回復するにつれ、配下の者や女が消えていくが、老人の強大な権力によってそれらが表に出る事はなかった。 ある日、女装したひさぎがいつものように殺人を終えると、現場を見ていたらしい美少年と遭遇してしまう。だが少年は怯えるでもなく微笑し、姿を消してしまう。その日からひさぎの運命は大きく変わってしまう…… というのが、物語の導入部。 凄まじい膂力と生命力を持つ怪物と、それを作り出す"使徒"、彼らを倒せる"魔弾"を持ちひさぎの周囲に突然現れる自称"悪魔"、彼らによって運命をねじ曲げられたひさぎは、どういう道を選び取るのか? といった話。 オビを見ると「伝奇アクション長編」となっており、作者のサイトを見ると「実はぼくは、「徳間? 徳間といったらエロエロバイオレンスだろう。おそらくEdgeというのもそういう作品の集まるレーベルに違いない」と勝手に思い込み、『メフィストの魔弾』という作品を書いたのだが〜」と書いてある。まさしく作者の言うとおりで、この作品を一言で現すと「エロエロバイオレンス」になってしまう。 伝奇小説と言えば現在は夢枕貘や菊池秀行が主流で、彼らが作った伝奇ものにバイオレンスとエロティシズムはつきもの。当然この作品もその例に漏れない。 確実にオーバーな書き方だが、読んだ感じでは作品の7割はエロじゃないかと思うほど、濡れ場やそれに準ずるシーンが多い(重ねて言うけど、オーバーな書き方なので勘違い無きよう)。そういった意味では万人にはオススメできず、中学生は買ってもベッドの下に隠しなさいってな感じ。あ、一応言っておこう「エロ目的に買うべからず」。エロいシーンは多いが、エロティシズムという感じではなく、もっとライトに「エロい」といった雰囲気。生々しいと言えば生々しいのだが……運の悪い事に、この作品を読む前に富野由悠季の「オーラバトラー戦記」を読んでいたので、あの御大の圧倒的な生々しさとつい比較してしまった。この点については、比較する相手が悪かったので、あまり参考にならないと思って頂きたい。 ターゲットとしては、今までライトノベルを読んでいた高校生以上の層に向けた伝記小説入門といった所か。逆に言えば、夢枕貘や菊池秀行のような伝記小説が好きな人には物足りないかもしれない。 その代わり、読感はわりとあっさりしており、他の伝奇小説に見られるような読みにくさはない。むしろ読みやすい部類に入るだろう。 個人的なワガママを言うならば、上下巻とかで構成して欲しかった。おいしい素材が多いが1冊に収めなければいけないので、素材をフル活用しきれていないと感じたのだ。しかしながら今作は、トクマ・ノベルズの新レーベル「Edge」の第2弾作品のため、上下巻という構成には出来なかったのは理解できる。だが、やはり良い素材だけに、もっと美味しく、もっと多く料理して欲しかったなぁと、やはりワガママなのだがそう思ってしまう。 |