なんでもレビュー

暗いところで待ち合わせ
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出版:幻冬舎文庫 著:乙一 定価:495円+税

 乙一作品の中でも屈指の名作。

 盲目の女性ミチルと、殺人犯として警察に終われる青年アキヒロ、まったく関連性のないはずだった二人の話。
 ミチルは視力を失い、唯一の家族だった父も失い、ただただ家の中で安全な暗闇に包まれてただよっている。買い物に連れ出してくれる親友に、もっと外に出ろと言われても、家の外という危険で自分を傷つける暗闇に怯え、自分一人で外に出ることは決してしなかった。
 アキヒロは人の中にとけ込めないまま、印刷会社に勤めていたが、先輩社員との確執があり殺意を人に漏らしてしまった。そしてしばらく経ち、先輩社員は電車に突き落とされ、彼はその場から逃げ、殺人犯として追われる。
 アキヒロが選んだ潜伏先は、いつもホームから見えていた視覚障害者――ミチルの家だった……。
 アキヒロはじっと息を殺し、見つかってはいけないと自分の存在をひた隠しにする。一方のミチルは食料の減り方や、たまに感じる違和感などから、自分以外の何かが家の中にいるのではないかと疑いを持つ。

 アキヒロは自分の存在を気づかれれば警察を呼ばれてお終いになってしまうと警戒し、ミチルは自分が気づいている事を知られては殺されるかも知れないと警戒する。
 ミチルの心理描写もアキヒロの心理描写もとてもしっかりしており、お互いの立場からの微妙な動きというのが面白い。
 例えば、アキヒロはミチルが食器を割った後、気づかれないように彼女が取り残した破片を片づけてやる。ミチルは気づいていないふりをしながら、そこに何が居るのか、どんな人間なのかとカマを掛けていく。じわじわと、とてももどかしい距離の取り方、牽制の仕方で進む物語に、二人の心理や生い立ちなどが上手く絡み、スリリングだがハートウォーミングな素晴らしい味わいの小説となっている。

 帯に「乙一ファンの間で最高傑作と賞される長編小説」と書いているのですが、確かにそうかも知れない。
 系統としては「しあわせは子猫のかたち」に通じるものがある。あの短編が好きならこっちもOKではないだろうか。
 
(注:この出版から数年経って発売されたハードカバー「失はれる物語」のあとがきに、「Calling You(君にしか聞こえない)」、「しあわせは子猫のかたち」、「暗いところで待ち合わせ」が乙一氏の中で三部作という位置づけだと書かれています。勿論ストーリーとか設定に繋がりなどはないのであしからず)
  乙一作品は、「せつない」、「暗黒」、「ハートウォーミング」の三種に大分類できると考えていますが、これはその中の「ハートウォーミング」での揺るがぬ一位だと確信しています。
 本当に、普段の乙一作品が苦手な人でも面白く読めるであろう暖かい作品となっています。是非。

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