真・なんでもレビュー
神々の砂漠 風の白猿神 | ||
出版:富士見ファンタジア文庫 | 著:滝川羊 | 定価:546円+税 |
物凄い良質の詐欺にあったような気分。 第六回ファンタジア長編小説大賞の大賞受賞作品。 近未来の地球が舞台。文明が破壊された後の世界で生きるキャラバンの少年を主軸に描かれている。 なんというか、「うお、スーパーロボット物の小説があったよ」という感じなのだが、ファンタジーに分類したいSFである。 言ってみりゃロボットに乗って戦うわけさ。 「神格筐体」という球体のコックピットに乗り込み、「相」というオーラみたいなモノをまとって戦うんだけども、その「相」にオリジナリティーがあって面白い。いや、オリジナリティーは無いのかもしれないが、まあオリジナリティーがある(何) 「相」を帯びれば、その神格筐体が持つ神格が発動して具現化する――と書くとわかりにくいから、簡単に例を出して見よう。 「阿修羅」の神格を持っている神格筐体が相を帯びると、阿修羅の姿形をした兵器になるってこと。 上記で書いたオリジナリティー云々はこのあたりにかかるわけですわ。 神格筐体にある「神格」は全て、実在の神話の神々である。それが「オリジナリティーがある」と書いた後に迷った所。 しかし、これの一番のオリジナリティーは「神と神が戦う」という所だろう。 言ってみれば、北欧神話のオーディンが日本神話のスサノオと戦ったりもできるわけだ。 しかもこの神格は「属性」というものを持っている。雷帝インドラだと雷の属性を持っている。ヒンドゥー神話の女神、アプサラスだと幻の属性を持っている。言ってみりゃ魔法や必殺技を持っているってこと。 先ほども書いたことをもうちょっと詳しく書くと、「別々の神話の神と神が、それぞれの神話で描かれた力をぶつけ合って戦う」ということになる。 ストーリーはありきたりといえばありきたりで、典型的なボーイ・ミーツ・ガールの形。主人公が記憶をなくした少女と出会って成長して――という本当に典型的な。 それでも面白いのは設定が練られているから。 世界各地の神話やそれに出てくる神々をよく調べてあるし、文明が滅びた理由などもなかなか面白い。複線が豊富で魅力的なのも良い点だろう。 作者本人は「基本路線はガンダムとラピュタ」と言っているが、それが見事に成功していると思う。 さて、こうなってくると冒頭の「物凄く良質の詐欺」というのがわからないだろう。 理由を説明すると、この作品、実は完結していないのだ。 通常、賞に応募する作品は完結した状態で送るものなのだが、この小説は「つづく」という感じで終わっている。複線をほとんど伏せたまま「以下続刊」というノリなのだ。 これできちんと続けてくれれば良いのだが、これが出版されたのが平成七年。このレビューを書いているのが平成十四年。 …………続編が出てないことはもうおわかりだと思う。 七年、新刊が出ないのだ。そりゃ田中芳樹氏のアルスラーン戦記は9巻から10巻が出るまでに九年かかったが、それは氏が御大だから許される。この滝川氏、言うまでも無く新人である。新人作家が七年経っても続編を出さないというのは……ま、素直に諦めたほうが良いのだろう(なんでも現在は小学校の教諭をしているそうだ……)。 富士見ファンタジアの審査員の間でも応募作品なのに完結していないことが議論を呼び、それでも「面白いから良い」という理由で大賞を受賞したこの作品。驚くことに、新人なのにイラストはいのまたむつみ氏である。しかも巻頭にいのまたむつみ氏のキャラクター設定画と佐山善則氏のメカ設定画がある。さらに巻末ではあとがきの後に編集部だけではなく、選考委員からの解説までついている。 なんとも色んな意味で空前絶後の新人である。 ここまでプッシュされておきながら新刊が出ないというのが「良質の詐欺」のゆえんである。 さあ、続編が出ないと解っていても読むか否か、それはあなたの判断にお任せしよう。 |