真・なんでもレビュー
かめくん |
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出版:徳間デュアル文庫 | 著:北野勇作 | 定価:648円+税 |
不思議な小説である。 名前からは想像もつかないが、SFである。しかも日本SF大賞を受賞し、ベストSF2001の第一位をとった作品でもある。 シュールな表紙とタイトルと同じく、内容もシュールであるが……凄まじく地味な作品だ。 近未来の大阪を舞台にした小説で、主人公はかめくんという名のかめ。とは言っても亀ではない。 人と同じくらいの大きさの、二足歩行をするかめのロボットである。 かつて木星であった戦争に使われたあと、メモリーを消されたかめが、大阪の町でのんびり暮らしている話。 なんというか……やたらとリアリティがあるのだ。冒頭の新居を探す時点でそうだ。 勤めていた会社がつぶれるため、社員寮から出なければいけなくなったかめくんは、親切な上司のすすめで新居を探すことにする。職を失ってしまっては貸してくれる部屋などないだろうが、まだ会社はつぶれていないため職は一応ある。かめは嘘がつけない設計になっているため、彼が「仕事をしている」と言えばアパートの管理人もそれを頭から信じてしまう。まあ嘘はついていないが、すぐに無職だ。こんな、何気ない行動からも雰囲気がにじみ出ている。 この話の凄い所は、山場が無いところだろう。まるっきり無いとは言わないが、山と言わずに岡と言っても問題がない程度のものだ。淡々と日常を暮らしているかめの生活を、ずーっと見ているだけな気もする。 かめくんは過去の記憶が無いのだが、それゆえに哲学的なかめである。『自分の思考というものは、記録されている情報などを組み合わせているだけで、本当の思考ではないんじゃないか』というような事をずっと考えている。自分たちかめと亀の違いとは何か、自分も冬眠をすることが出来るのか、延々と悩み続けているのだ。 作中でかめくん自身のセリフというものは無いし、常にゆっくりゆったりとしているのだが、それできちんとコミュニケーションを取っているのだから、また面白い。 う〜ん、レビューしといてなんですが、この話はレビューしにくいね。 山場も無いし、目を見張るような論理なども無いので、雰囲気で読ませるタイプの小説なのですが、それゆえにレビューが書きにくい。タイトルや表紙などからはジュニアノベル的な物や、悪ふざけをしたSFやコメディだと勘違いされがちだが(というか私は勘違いしていた口だが)、中身はと言うとユーモラスではあるが、真面目な作品である。 しかしこの話、本当に地味だ。地味は地味なのだが、地味に面白いのだ。声を大にして「この物語はココが面白い!」とかは言えないし、特筆して心に残るセリフやシーンがあるというわけではない。ただひっそりと面白い。 立ち読みしても何が面白いのか解るまで雰囲気を味わえないと思うので、買って読めとしか言えません。あたりはずれはあるだろうけどね。ホント、レビューになってないなぁ(笑) |