真・なんでもレビュー

ハイペリオン
左から、文庫版上・文庫版下・ハードカバー。各画像クリックでamazonへ。
covercovercover
出版:ハヤカワSF 著:ダン・シモンズ(訳:酒井昭伸) 定価:上下巻各800円+税(ハードカバー版は2816円+税)

 圧倒的。
 一言でこの作品を表せと言われれば、その言葉しか思い浮かばないほど凄まじい小説。

 どのような作品かというのを帯裏より引用するならば、
「28世紀、人類は二百にのぼる惑星を転移網で結び連邦を形成していた。その辺境に位置する惑星ハイペリオンで、人々の畏怖と信仰を集める遺跡<時間の墓標>と怪物シュライク。この謎を解明すべく、迫りくる宇宙の蛮族アウスターの脅威のもと、最後の巡礼七人が惑星を訪れた。その途上で語られる、それぞれが背負う数奇な運命とは……」
 というのが説明となるようだ。

 このハイペリオンは完成された「未完の作品」である。
 膨大な設定や人物相関があるのだが、このハイペリオンでは七人の巡礼たちのうち、六人の物語を語るだけなのである。
 “巡礼”というのは怪物シュライクを信仰する“シュライク教団”の信徒を指すはずなのだが、この巡礼たちは皆シュライク教団とは関係が無い(とも言い切れないが)一団であるのに“巡礼”となっているのである。それも、“宇宙の蛮族”アウスターがハイペリオンに侵攻してくるため“最後の巡礼”となってしまう大切なものなのに、シュライク教団の信徒ではない彼らが巡礼するのである。
 滅びていく過程にあるキリスト教の神父に、ハイペリオン星の元・領事、私立探偵に詩人、森霊修道会の信徒、英雄と呼ばれた元・軍人に、赤子を連れた学者、そんな七人。
 初対面であるその七人が、なぜハイペリオンへ“巡礼”に向かうのか、その各々の物語を語るのがこの「ハイペリオン」なのである。
 一人一人の物語を読んでいくうちに読者はその一人一人の内面や心情を理解するようになっていくだろう。
 とてもよく練りこまれた人物設定や言い回しなどは、古い翻訳物に見られる「この作品は訳のせいで失敗した!」というものでなく、訳者自身が小説家なのではないかと思うほど解りやすく、各々のキャラクターをよく書き分けて訳している。

 はっきり言ってこの本は内容がとても濃い。
 見事なことに、この作品は宗教論に哲学、ファンタジー、愛憎劇を入り混ぜた挙句、しっかりとSFしている。
 そして、キーツという実在した詩人の作った「ハイペリオンのうた」をベースにして随所に詩を取り入れている。さらにこの「ハイペリオンのうた」が未完成の作品であることをもベースにし、この小説「ハイペリオン」自体が未完なのだ。
 先ほども書いたが、完成された「未完の作品」なのである。
 様々な謎を残したままこの小説は終わる。それこそ読んでいる立場からすれば怒涛の展開にぐいぐいと惹き込まれたまま終わってしまうのである。
 しかしそこはご安心を。
 この作品は「ハイペリオンの没落」という作品でしっかりと終焉を迎える。いわば、「ハイペリオン(上・下巻)」は「ハイペリオンの没落(上・下巻)」との二部作(文庫本なら四部作)でセットなのだ。

 私は最初、この本を手に取ったとき文庫本にしては高かったのと、内容の密度が物凄く濃いことを聞かされていたのとで少し気が引けたし、読み始めたときも「むずかしいなぁ」と思っていた。
 だが、読んでいくうちにどんどん惹き込まれ、一度惹き込まれたらページをめくる速度が加速するばかりではなく、睡眠時間までもが減っている自分に気付くのだ。
 こんな作品に出会えた事に感謝し、この小説を紹介してくれた恩人に感謝したい。
 あぁぁぁっ面白いっ!

レビュートップへ TOPへ