真・なんでもレビュー
失踪HOLIDAY | ||
出版:角川スニーカー文庫 | 著:乙一 | 定価:552円+税 |
表題作のほかに、短編「しあわせは子猫のかたち」を収録。 主人公は金持ちの娘(14歳)。父とは血が繋がっておらず、実母は死亡。新しい母には馴染めず、誰も信用できない。いつ家を追い出されるかと心配しながら、半ばヤケで傲慢なお嬢様をしている。そんな彼女の壮大ないたずら、自分を偽装誘拐するというお話。 親切な小説だなぁと思うほど、風景描写が想像しやすい。少女の心理描写もしっかりと書いており、舞台が狭いにも関わらず(キャラクターが殆ど移動しないにも関わらず)、いきいきとしている。 また、乙一の個性である空気感と収束の上手さ、読者の予想を裏切る要素なども、ちゃんと詰まっている。 ただ、今作に限っては、読者の予想を裏切る要素が蛇足かなと多少思わないでもない。無い方が逆に楽しいかもしれない。それでも、ちゃんと面白い。 実を言うと、乙一の作品を色々読んだ中で、この作品の評価はそう高くない。でもそれでも高評価を付けたのは「しあわせは子猫のかたち」の存在が大きい。 これはマジで良い。 一軒家を安く借りて一人暮らしをする青年。開けたはずのない窓が勝手に開いたり、出していた物が片付けられたりと、何か見えないものが住んでいる気配を感じる。実はこの家、前の持ち主が殺されていたのだ。 こう書くとホラーかと思われそうだけど、めっちゃハートウォーミング系です。書き出し文を抜粋させてもらうと、 家を出て、一人暮らしをしたいと思ったのは、ただ一人きりになりたかったからだ。自分を知る者のだれもいない見知らぬ土地へ行き、孤独に死ぬことを切望した。大学をわざわざ実家から遠い場所に決めたのは、そういう理由からだ。生まれ故郷を捨てるような形になり、親には申し訳ない。でも、兄弟がたくさんいるので、できのよくない息子が一人くらいいなくなったところで、心を痛めたりはしないだろう。 こう始まる。こんな青年と、見えない誰かの無言の生活。心が温まり、なおかつ切ない。短編だけどミステリ的な要素も含んでおり、乙一独特の空気感や、読者の予想を裏切る展開、結末の収束の華麗さなどもある。別に私が猫好きだから高評価なわけじゃないぞ。 ぶっちゃけると、失踪ホリディがもう少し短くて、もう一本短編が入り、表題作がこちらならもっと評価は跳ね上がってたと思う。おすすめ。 |