真・なんでもレビュー

夏と花火と私の死体
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出版:集英社文庫 著:乙一 定価:419円+税

 乙一のデビュー作。第六回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞作
 表題作の他に、短編「優子」を収録。
 驚いたことに、この作品は一人称で進んでいきます。ただし、死体の。
 弱冠16歳で《死体の一人称》という甚だ珍妙にして難しい事にチャレンジするのはさすが乙一というところか。
 今の乙一の魅力は、まだ拙いながらも既にこの作品で発揮されています。

 小学生の五月は、親友の弥生の手により殺されてしまう。弥生と兄の健が、死んでしまった自分の死体を隠そうと翻弄するさまを、五月の視点で語るという一風――どころか二風も三風も変わった小説である。
 死体の一人称というのがまた曲者で、通常の一人称と違い、本来見えているはずの無い事象を語っている部分も許容してしまえる。
 死んでしまった“私”と、隠そうとする憧れの“健くん”、友達だったのに殺した“弥生”、何かに気付いた様子を見せる健くんが憧れる従姉妹の“緑さん”が話の中心である。健と弥生の行動も歳相応と言っても差し支えの無い範囲で、面白く動いているし、先が読みにくい展開は魅力的だった。
 巻末の解説で、賞の選考委員だった小野不由美氏が当時の『ベタ褒め』していたメモや、絶賛していた我孫子武丸氏らの発言などを思い起こしているが、それも納得の出来である。こんなものを16歳に書かれた日にゃあたまらんわな……

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