なんでもレビュー

DEATH NOTE アナザーノート
ロサンゼルスBB連続殺人事件
出版:集英社(単行本) 著:西尾維新 原作:大場つぐみ、小畑健 定価:1300円+税

 週刊少年ジャンプで連載されていた人気漫画「DEATH NOTE」のノベライズ作品。
 原作漫画は退屈な死神リュークが人間世界に"名前を書けばその人を殺せるノート"をわざと落とし、一人の天才少年夜神月(やがみ・らいと)が拾った所から話が始まる。ライトは自らの正義で悪人や犯罪者を殺しまくり、次第に世間からも悪人を裁く正体不明の"キラ"という存在がいると認知されていく。しかし悪人しか殺していないとは言え殺人鬼である事には変わらないため世界中の警察はキラを捜そうと躍起になり、ついには正体不明ながら世界中で難事件を解決してきた名探偵"L"が事件の解決に動き出す。デスノートという作品は、キラとLの壮絶な心理戦を描いたサスペンス漫画の傑作であった。
 無論、最後まで傑作と言われたかというと、「ダメになった」と言って去っていく人を産むターニングポイントがいくつもあり、Lとの決着が付く第1部終盤で見切りを付けた人が大勢いた。第2部では勢いも失速し、評価も著しく落ちていったが、それでも他の漫画に比べた場合まだまだ圧倒的な人気を誇っていた所から、この漫画作品がいかに怪物的な存在であったのかがうかがえる。

 さて、長々と前置きで漫画版の説明をしたのには訳がある。
 この小説作品は漫画を原作にしているとはいえ、完全新作なので漫画版のファンも知らない話が展開される。
 元々漫画版のファンをターゲットにした作品なのはノベライズという時点で明確なのだが、逆に原作は知らないけど小説から読んでみたいという人もいるはずだ。
 だが、この作品ではそれは不可能なのだ。
 なぜなら、この小説は完全に「漫画版を最後、もしくは第2部終盤まで読んだことがある」という層に向けて書かれているからだ。
 用語やキャラの説明はほとんど無く、主役が第1部でキラに殺される元FBIの女性、語り手は第2部の(影が薄い)主要キャラがLの手記を元に語るという不思議な状態で、しかも漫画版の結末にも触れている。
 漫画版を読んでいない人、第1部を読んでいない人、第2部を読んでいない人、まだ読んでいる途中な人、今挙げた全ての層にこの作品は不親切なのだ。
 完全に原作ファンへ向けられたノベライズなので、上記に当てはまる人は原作を先に読んで欲しい。

 さてさて、では原作を全て読んだ、読み込んだという層ならばこの小説が楽しいのかというと、微妙である。どういう事かは後述するとして、まずは小説の紹介をしよう。

 主役は停職中のFBI捜査官、南空ナオミ。舞台は漫画本編の開始2年前となるロサンゼルス。
 ビリーヴ・ブライズメイドの絞殺事件、クオーター・クイーンの撲殺事件、バックヤード・ボトムスラッシュの刺殺事件、立て続けに起きた死因の違う殺人事件の現場にはそれぞれ藁人形が壁に打ち付けられていた。
 ナオミは正体不明の名探偵"L"からパソコンごしに依頼され、後にBB連続殺人事件と呼ばれる一連の殺人事件の調査に乗り出す。事件現場で彼女は竜崎ルエと名乗る極度の甘党の不審者と出会い、その存在を疑いながらもLから「泳がせておいて良い」と言われたため半ば共同捜査のような形で行動を共にする。
 既に起きてしまった事件に残された難解すぎる謎、これから起きるであろう事件を未然に防げるのかどうか、竜崎ルエとは何者なのか、パソコンや電話ごしにしかコンタクトを取れないLは果たして何が目的なのか、様々な謎を含んだミステリー作品。

 私の感想としては、「面白いけど……卑怯臭いなぁ or なんだかなぁ」というものであり、先に読んでいた姉の感想も同様であった。
 個人的に筆者の西尾維新氏の作品は、デビュー作を読もうとして序盤のうちに頓挫したという経験が2度もあり(3度目の正直でようやく読めて、以後そのシリーズは全て読んだ)敬遠して来たのだが、今作は中々読みやすい。作風のタイプ的には大分類すると川上稔氏と近いか。複雑な言い回し(川上氏の場合は莫大な設定量)などに見られる作者の技量を文章でそこはかとなく誇示する点、一度ファンがついたら熱狂的なまでにはまっていく点などは類似するように思える。
 何故この作品が卑怯臭いとかなんだかなぁという、素直にほめられない状態なのかというと、読者側が持っているDEATH NOTEのイメージと小説文章のギャップというものがあり、それをトリックに組み込んだりもしているのだが、どこまで狙ってやったのか、狙ってやったにしても強引だという所がそういう印象を与える。
 この点が作品最大の欠点だと思うのだが、上手いという見方も出来る。しかし、具体的に書くと小説の面白さを奪ってしまうことになるので、迂闊に書けないのがまた卑怯臭い(苦笑)
 幸いこのレビュー欄は黒地なので、以下に黒字で具体例を挙げるが、決定的なネタバレになりかねないので気にする人は覚悟を持って文字通り読むかどうかを選択して欲しい。
-----決定的なネタバレ開始(文字列をドラッグすると読めます)-----
 原作でLは竜崎を名乗ってライトの前に姿をさらし、今作でもLが竜崎を名乗った最初の事件という説明が最初にあるため、当然竜崎ルエ=Lという図式になる。
 しかしながら、ナオミの喋り方も竜崎の喋り方も原作を読んでいると「こんなキャラだったかな?」と疑問をいだかせる。ナオミは原作じゃあんまり地を出すヒマもなく殺されてしまったので仕方ないのだが、原作一番の人気キャラだったLの喋り方はそれでは説明が行かない。
 読者側は「まあノベライズだから原作作者のイメージと小説作者のイメージが違うんだろうな」とか「この筆者はこういう文章を書く人なんだろうな」という所で自分を納得させて読み進めるわけだが……。

 これが決定的なネタバレなのだが、
西尾維新は「竜崎ルエはエルじゃありませんでした」という最高に嫌らしい叙述トリックを使ってしまったのだ。つまり卑怯に感じたのは「エルじゃないから喋り方が違うんだよ」という事。カリスマ的な原作のカリスマ的な主役級キャラであるL、それを小説で何万といるファンのイメージを壊さないように表現するのは難しい。実際同じカリスマ的な原作を持つ「ジョジョの奇妙な冒険」をノベライズしようとした乙一氏は、試行錯誤のうちに何度も書き直し、発売予定から数年経った今も未だに完成しておらず、スランプにまで陥ってしまった(後日注:没原稿2000枚を突破し、長年のスランプを経てついに発売されました)。それに対して、こちらは逃げを打ったのかという印象がしたのと、叙述トリックにしてもソレかよ! という思いが混ざって「面白いけど……卑怯くさいorなんだかなぁ」という感想になったのだ。
-----終了-----
 だが確かに面白い作品ではある。
 これを切っ掛けにしてミステリ小説のファンが増えてくれるのならば、それは嬉しいことだ。
 とりあえず私は友人から借りっぱなしの、西尾維新デビュー作「クビキリサイクル」を3度目の正直で読む挑戦をしてみようと思う。だが日本には2度あることは3度あるということわざもあるので、読めたかどうかは後日レビューが掲載されるかどうかで判断してください。
 後日注:3度目の正直に成功して、ようやく読めたら結構楽しかったので、友人に頼んで譲って貰い、残りの巻を全て集めました。
 それと同時に、西尾維新先生の作風は「王道を裏切る」「読者の予想/期待を裏切る」という点がかなり大きく、逆に「王道を裏切ってくるからこう展開するだろうな」「こう予想させてるからにはこうしないんだろうな」という先読みが出来てしまうという諸刃の剣だなという印象を受けました。
 このBB殺人事件でも、その手法を使っているせいで先述の「卑怯くさい」「逃げを打った」という印象になってしまっているのでしょう。自著ならば効果的でも、個人的には原作者と原作のファンがいるノベライズにおいてはあまり使って欲しくないやり方です。

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