なんでもレビュー

バウワウ!-Two Dog Night
出版:電撃文庫(メディアワークス) 著:成田良悟 定価:590円+税

 2019年の日本、新潟と佐渡の間に架けられ、不況によって未完成のまま放置された世界最大の橋、その中央にある名も無き人工島が舞台となったジュニアノベル(ライトノベル)。

 舞台設定がとても面白い。
 佐渡と新潟を結ぶやたらと大きい橋、その真ん中にある人工島、それらが造られることになった経緯と、放棄された経緯。そして、大きすぎるが故に人が住み着くこととなってしまったという事実。放棄されたが故に無法地帯となり、日本の九龍城とでも呼ぶべき場所へと変化したという事実。そうしてそこに暮らす人々の気風、習慣、秩序など、舞台が狭い分設定が詰め込まれ、濃厚な仕上がりになっている。

 作者である成田良悟氏は、私が今一番注目している若手作家なのだが、氏の特徴として「作品に明確な主人公が設定されていない」というものがある。デビュー作である「バッカーノ!」ではそれが見事に成功していたのだが、この作品では少し空回りしていると言わざるを得ない。
 この作品の主人公格は三人。
 一人は、西区画管理者である狗木誠一。一人は、重要指名手配犯である戌井隼人。一人は、西区画自警団長である葛原宗司。
 副題に「TwoDogNight」とあり、序章も狗木と戌井が初めて橋に入った日の話である事から、この二人が主人公のように思えるのだが、その割には魅力があまりない。というか、ぱっと見ではメインの主役に見える狗木に魅力が無いと言った方がいいのだろう。
 結論から言って、この小説の主人公は葛原だと思って良い。
 戌井は髪を七色に染め、人を殺すことに何のためらいもなく、自分の趣味で殺すような所さえある。少々頭がトんだ男で、その言動や行動に不思議な魅力がある。
 葛原は狗木の部下で、自警団長として住民から慕われ、犯罪者からは畏れられている寡黙な男だ。無法地帯にあって決して銃は使わず、銃弾さえ受け止める厚手のグローブと驚異的な身体能力だけで治安を守っている、一種のヒーローである。
 サブタイトルや出だしこそ、狗木と戌井の話に見えるが、話を読み進めるとどう見ても主役は葛原である。その点で、少々構成ミスな感が否めなかったために評価は下げさせていただいた。あくまでも少々ではあるが。

 出てくるそれぞれのキャラが、どこかしら人格の破綻したような所がある。そして、それぞれが確固たるポリシーを持って生きている。そんな奴らが無法地帯で鎬を削る。醒めたような雰囲気と熱さの混在する独特の読感が面白い。
 絵師だか誰だかが「ボーイ・ミーツ・ボーイ物」という呼び方をしていたがまさにその通りで、過去の影を引きずったまま、それでも熱い感情を眠らせた男達が出会い、必然のように戦う。狗木ミーツ戌井。そして巻き込まれてるはずが、主役になってる葛原。
 読後しばらく経った今から考えると、作者はきっと、アクション、ヒーロー、ロマン、そんなこだわりを作品に織り込みたかったんだろうなぁと思う。
 あとがきを読むと、どうも文字で観るB級映画を目指している感もあるのだが、B級を狙ってる箇所もあれば、B級に徹し切れていない所もあり、普通に面白い小説として終わっている。B級映画を見終わった後の「……2時間無駄だったかなぁ」ってな感じはない。
 ジュニアノベルとして見れば質は高い方に入ると思うが、成田良悟作品としてはあまり良い評価は出来ない。これは、決してこの本がダメだというのではなく、「バッカーノ!」シリーズのパワーが有りすぎたという事だ。

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