真・なんでもレビュー

石ノ目
cover
出版:集英社(新書版) 著:乙一 定価:857円+税

 乙一のホラー短編集。とは言っても、おどろおどろしいホラーなどは収録されておらず、逆に「ホラーじゃないだろ」と言いたくなる作品が多いです。
 集英社新書という、一般書店ではあまり置かれないレーベルですので、探すのには苦労するかもしれません。大型書店や取り寄せ、ネット注文などで買うことをオススメします。
 さて、収録されている作品は、表題作「石ノ目」、「はじめ」、「BLUE」、「平面いぬ」の四篇です。

 「石ノ目」
 ある田舎の山に伝わる伝説に「石の目様」というのがある。言ってみれば西洋のゴルゴンみたいなもので、目を見ると石にされてしまうという伝説だ。主人公は小学校の教諭で、同僚と共に故郷の山に入る。そこで崖から転落した二人は、助かるために必死で歩き、一軒の民家の前で倒れてしまう。彼らを助けた謎の老婆の正体は――
 ってな作品。実際にありそうな伝説で、不気味な「私の顔を見てはいけない」と言う老婆の存在感が結構ホラーしている感じはするんですが、幼少の頃に聞いた昔話の方が怖いってレベル。面白いんだけど、怖さが足りないかな。スリリングではあるんだけど……。相変わらず好きな雰囲気ではあるんですがね。

 「はじめ」
 これは角川スニーカーから出ている『君にしか聞こえない』に収録されている名作『Calling You』と同系列の発想から生まれたんじゃないかと推測してみる。乙一は「しあわせは子猫のかたち」と「暗いところで待ち合わせ」のように、同じ発想から派生した別作品といった雰囲気のものを書く癖があるのかな?(アイディアを捨てずに大切にしているだけかもしれない)
 実はこの作品、地味に漫画化されているので、知っている人もいるかも。2002年末くらいに、週刊少年ジャンプで「ヒカルの碁」の作者が読み切りとして上下二話で掲載してました。
 ストーリーとしては、小学生の耕平と木園はある事で咎められた罪を、空想の女の子を仕立て上げて、そちらを犯人として罪をなすりつけた。彼ら二人の空想である女の子「はじめ」は、次第に学校から町へと噂が広がり、居ないはずなのに「はじめという子がこんな事を……」といった感じで悪名が広まっていった。二人は自分たちの空想を練り上げ、はじめ像を固めていった。
 ある日、彼らは町の地下にあるという水路の入口を偶然発見してしまう。そこに入り、迷ってしまった二人は、はじめの声を聞く。二人はそれを幻聴だと思ったが――
 というお話。存在しないが存在する女の子の悲しみが結構前面に押し出されているかな?という感じ。ストーリーは「はじめが事故で死んだ一周忌」から回想として始まる。なぜ空想の女の子が事故で死んだのか、はじめとはどんな人物なのかというのを楽しむというタイプの物語。

 「BLUE」
 アル中の人形作家が、偶然立ち寄った骨董品屋で見つけた不思議な布。彼女はそれを使って王子、王女、騎士、馬を作った。そして、あまった布を寄せ集めて、不恰好な、肌の青いつぎはぎの人形を作った。彼女はその人形をブルーと名づけた。
 不思議な布から作られた人形たちは、生きていた。人形作家が亡くなってから、彼らはとある一家に普通の人形として引き取られた――
 この話がこの本の中で一番好きです。
 人形を集める少女と、彼女を溺愛する夫婦、乱暴者で家族からの愛が無い少年の四人家族なんですが、ブルーは不恰好なため少女に気に入られません。いつか少女が自分を好きになってくれるように努力するブルーと、そんな彼女に冷たい王子たち。人間社会と人形社会、両面での悩みなどが見ていて面白かった。乙一らしくないと言ってはなんだが、ブルーの性格がとてもおとぎ話チックで、それが作品の味をいっそう高めている。乙一の空気感というものは薄いが、薄くてもOKというタイプの作品である。ちょっとキャラが薄いかなというのもあるけど、まあ良いお話です。

 「平面いぬ。」
 父が癌で死ぬと母から教えられた少女は、父から母が癌で死ぬと教えられ、続いて両親から弟が癌で死ぬと知らされる。全員寿命はあと半年。そして、当人は自分が癌だとは知らず、他の二人が癌だとは知り、半年後には少女と二人暮しだと思い込んでいる……。
 んで、タイトルは少女が腕に彫ってもらった刺青の事。
 少女が彫ってもらった犬は、彼女が目を話した隙に勝手に動き出し、犬が近づけば腕から吠える。
 家族と死別する事が解ってしまっている少女の物語――
 冷めてしまった家族との残された半年での関わりと、勝手に動き回る平面の犬との関わり。両面から学ぶ少女の成長。独特で、楽しい雰囲気である。また、キャラクターに好感が持て、主人公一家や親友である彫り師の娘のキャラも面白い。
 ラスト辺りでちょっと引っかかりかけたものの、まとまりが良く読みやすかった。

 まあ、相変わらず作品に死が付きまとっている乙一氏ですが、この本は死があっても心は温かくってな感じなんで、問題は無いでしょう。この人、たぶん幻想を抱くのがあまり好きじゃないのかなと思うほど、空想し夢想して創った小説の中に幻想は入れずに現実を入れちゃう癖がある気がします。ま、それこそが乙一の味なのかも知れません。

レビュートップへ TOPへ