真・なんでもレビュー

エンディミオンの覚醒
左から、文庫版上・文庫版下・ハードカバー。各画像クリックでamazonへ。
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出版:ハヤカワSF 著:ダン・シモンズ(訳:酒井昭伸) 定価:上下巻各1000円+税(ハードカバー版は3990円)

 ハイペリオン四部作最終巻、エンディミオン新二部作の終結。
 ぶっちゃけ、微妙。
 話自体は面白いんだけども、これは好き嫌いが分かれると思う。
 詳しいことはストーリーに関わるので書けないのだが、中だるみしすぎているように感じる。
 宗教論・哲学などを延々と語りすぎているし、余計なキャラが多すぎる。ただのやられ役や、脇役にもなっていない程度の役まで、フルネームと描写をするのは行きすぎだろう。いや、普通の小説で数人にそれをするのならば別にマシなのだが、何十人という単位で脇役を描写されても読者は疲れる。さらに、いらない描写を増やしたせいで、主要人物に割くページが不十分。上下巻で2000円もするのに……。いらない描写を減らしたら読みやすくなるし、ページも減るので値段も下がるはずなんだけど…………
 まあ、こういうのが好きって人にはたまらないんだろうね。今までハイペリオンシリーズは、買ったら一気に読んできたが、こればかりは、私にはつらかった。
 それと、やっぱり宗教の話がつらい。
 私も小説は書くし世界の宗教にも興味はあるので、一般の人よりは宗教に詳しいつもりだが(専門的な事は解らないけどね)、それでも読んでてダルくなった。そりゃあ「追う勢力」がキリスト教だから、その時点で宗教が絡んでるけど、仏教を持ち出してダライ・ラマとかまで出してくるのはやり過ぎだと思うなぁ……。
 キリスト教圏の作者がキリスト教をえがくのは解る。キリスト教圏の人には、根本からその精神が根付くことが多々あるので、とても自然だから。でもキリスト教圏の作者が仏教を語りだしたらどうも胡散臭い。良く調べてるし、かなり深いところまで考えてはいるんだけど、「あなたにブッダの加護を」などというセリフには疑問を感じた。チベットの人がそんな事を言うのかどうかは知らないけど、どうもキリスト教の感覚で言わせている気がしてならない。
 間違ってもそんな事はないとは思いたいが、ダライ・ラマにしても映画「セブンイヤーズ・イン・チベット」のダライ・ラマを意識しているように思えてならなかった。まあ、本書が発表された年と、映画が公開された年が同じなので、それはないだろうけどね(でも「セブンイヤーズ〜」の原書は50年ほど前だったり)。なんか余計な情報を閲覧者の方の頭に植え込んでるなぁ、すみません。私がそう思ったってだけなんで、気にしないでください。
 ともあれ、やっぱり宗教に関してはやり過ぎ感が否めません。仏教にキリスト教の他に、パレスチナなどの実在の民族問題まで持ちこんでしまうのは、気分が悪いかな。現実の民族問題とかをしっかり書かれてても「いや、俺はSFを読みたいねん」とか思うけど、私が引っかかったのは実在の民族問題、つまり当事者が現実にいるのに、しかも書く必要が無いのに、軽く流す程度でそれを持ち出したって事。宗教にしても実在のをあえて使う必要はあるのか解らないし。
 宗教と哲学と民族問題で、私はすっかり読む気をなくしてしばらく放置してました(ハイペリオンの時は宗教と哲学が入っていても、それが面白さを加速させる調味料になっていたのに……)。

 でも結局面白いんだよね。
 ハイペリオンから続く謎や、思いもよらなかった展開など、流石に四部作の最終巻だけはあるってレベルなんですわ。
 そりゃ、設定の破綻も目立ちますが(作者自身もそれを指摘してるし)、ちょっと素人みたいな誤魔化し方はしてるけど、それを吹っ飛ばすくらい面白い。
 でも、上記の宗教などの問題もある。
 つうか、宗教・哲学・民族などの欠点と、いらないキャラといらない描写が多すぎるという欠点を除けば、自信満々に★9個とかつけてたでしょう。
 う〜ん………………勿体無い。最後の最後で勿体無い。
 以前から「ハイペリオンシリーズで一番面白いのは『エンディミオン』、一番面白くないのは『エンディミオンの覚醒』」とか言われてましたが、確かにそうかもしれません。

 主人公ロール・エンディミオンは前作に比べて好感度が低いです。せっかくの設定である、元ハイペリオン自衛軍の兵士というものや、退役後はハンターのガイドっていうのが、殆ど役に立ってません。敵が強すぎてただの足手まといになってます。今回のロールの役割は、読者の代わりに「なにそれ? どういうこと? ぼくわかんないからおしえて」と言うのが一番かな――などと皮肉言ってみたり。でも、ロールの場面は「なにそれ?」が四割、嫉妬やスケベ心などが二割、活躍三割、足手まとい一割って感じかなぁやっぱり。
 冒険パートはかなり面白いんですよ。ホント、これがあるからSFは面白いって感じの、ファンタシーでは難しいようなものだし。でも、冒険パートが終わったら、延々と「なにそれ?」「どういうこと?」ばっかり(ここが、先述の「宗教・哲学」と「いらんキャラクターと描写」のパート)。
 終盤に行くと、やっぱり一気に面白くなってくるけど、主人公がただの頭悪くてガキっぽい30男ってのは魅力ないよなぁ……

 それらを踏まえて、冒頭で微妙と書きました。
 話は面白い。ハイペリオンシリーズのトリを飾るだけはある展開。途中で投げ出しかけていた私でさえ、かなり感慨深かったし、感動もしました。それだけは確かです。

 上で私が「問題」や「欠点」として挙げているような事が平気な人は是非読んで欲しい作品です。それ以外の方は……自己判断でお願いします。レビューになってないなぁ(苦笑)

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