なんでもレビュー

GOTH
cover
出版:角川書店 著:乙一 定価:1500円+税

 第3回本格ミステリ大賞受賞作。
 「このミステリーが凄い!」の2002年国内ベスト10の第二位にも選ばれた作品。

 乙一初のハードカバー。
 本人曰く、「ミステリをやろう」と思って書いたそうですが推理小説などでいう「推理する楽しさ」などは期待しないでください。ミステリの定義を持ち出すと私も上手く言えないんですが、ミステリ好きな人がミステリを期待して読むと、たぶん、ほんのちょっとがっかりします。でも、ミステリと乙一が好きな人が読むと、きっと満足します。
 ハードカバーとは言っても、基本は短編集といった感じで、同じ主人公を使用した作品が六篇入っています。
 主人公はとある男子高校生。
 ちょいとカバーの折り返しに書いてある文章を引用させてもらいます。
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 GOTHICの略だが建築様式とはあまり関係がない。それは文化でありファッションでありスタイルだ。人間を処刑する道具や拷問の方法を知りたがり、殺人者の心を覗きこむもの、人間の暗黒部分に惹かれるものたちがGOTHと呼ばれる。僕と クラスメートの森野夜がそうだ。
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 主人公は上記の文が表すとおりの人間です。殺人現場に立つ事を楽しむ男。彼とクラスメートの森野夜という少女がメインキャラクターです。森野が誰とも喋らず、人を寄せ付けない雰囲気を持っている少女であるのと対照的に、主人公は誰とでも明るく話し、家族とも仲がいい――というキャラクターを完璧に演じている。そう、完璧に演技してるんです。もうこのキャラの立ち方が抜群に面白い。森野との淡々としたコンビも斬新で、しかも読んでいて凄く心地いい。
 基本的に一人称で進んでいますが、一人称をここまで効果的に利用した小説も珍しい。また、先ほど「ミステリ好きな人がミステリを期待して読むと〜」と書きましたが、技術的な面で言うと、しっかりミステリの手法も使われています。どのような手法かを書いてしまうと面白味が減少するので、それは読んでのお楽しみ。
 乙一の味である空気感もいつも以上に味があり、読者にある程度予想をさせた上でそれを上回るアクロバティックな展開を魅せつけることも、いつも以上。
 しかしながら、話自体がどうしても暗いものになります。猟奇的な事件を扱っているので、それは物語の性質上しかたのないことであり、逆にムリして「いい話」にすると面白さが損なわれます。乙一の作風を「せつない系」だと思い、それが好きだという方は、あまりこの作品には合わないでしょう。

 ハードカバーでミステリという割には、サスペンスに近い、謎解きよりも雰囲気を楽しむ感があります。しかし、2002年の国内ミステリ二位に選ばれただけはあるのも確か。恥ずかしながら私自身がミステリといっても島田荘司作品しか読まないので(京極夏彦をミステリに含むのならば、氏も)、「ミステリ好きには〜」とかは書けません。はっきり言ってこの作品、暗いです。救いなんてありません。それでも、私は大好きです。ミステリだとか切なさだとかにこだわらず、ただこの世界にどっぷりと浸かっていただきたい。
 乙一作品は、「せつない」、「暗黒」、「ハートウォーミング」の三種に大分類できると考えていますが、これはその中の「暗黒」では現時点でトップの作品だと思います。お薦めです。

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