会話ショートショートその1&その2

-----その1-----

「あ、こんなとこにボクシングジムあったんや」
 河原を歩いていたらユキが言った。そちらを見ると確かにジムがある。
「おお、ホンマや。気付かんかったなぁ」
「ボクサーの人って大変やんな」
 気の毒そうに言う。確かに勝負の世界は厳しい。そりゃあ大変だろう。
「まあなぁ、殴って殴られる仕事やし」
「いや、そっちやなくて、練習が」
「ん? ああ、減量とかしないとアカンからか?」
「ちゃうちゃう。ほら、よく言うやん。相手を想像しながら練習する――」
「おお、シャドーボクシングか?」
 シャドーってそんなに大変だったろうか?
「そう! その邪道ボクシング!」
「……邪?」
「大変やんなぁ、電流爆破に有刺鉄線、リングぎわに追い詰められたら終わりやで。なおかつ毒霧とかもされるねんで?」
「爆破ってオイ……んなことするわけあらへんやろうが」
 笑いながら言う。
 その時、ジムから爆音が聞こえた。
 まさか――
「やってんの!?」
 あわててそちらを見る。
 立ち昇る煙に、割れた窓ガラス。運び出されるボクサー。
「なんだ、ただのガス爆発か」
「ガス爆発いうたらさ、バスガスバスバスって言いにくいやんな」
「言えてねぇよ」
 そんなこんなで、今日も平和だ。 


-----その2-----

「あ〜カキ氷食べたい」
「もう冬だぞ?」
「冬やから食べるんやんか。夏にカキ氷なんて普通やん」
「お前は異常なのか」
「うん」
「認めんなよ……」
「現実を直視しなアカン。そんなんやったらロクな大人になれへんで」
「そのセリフ、そのままお前に返してやるよ」
「ありがとー」
「礼を言うなっ!」
「返してもらったらちゃんとお礼。それ、日本人の常識ね」
「なんで中途半端にカタコトなんだ?」
「しゃっちょさん、気にしない。三千円ポッキリね」
「ほう、何が三千円なんだ?」
「ガリガリ君」
「高っ!」
「あ、信号かわるで」
「別にエエがな。ゆっくり待ったら」
「アカン! ここは魔の信号や」
「長いのか?」
「うん。一度かわったら十年は黄色のままや」
「黄色!?」
「そこは十年に突っ込まな」
「十年!?」
「遅いわ。エエから渡るで」
「いや、もう赤だし」
「信号無視!」
「信号無視無視されたらどうすんだよ。轢かれるぞ」
「そんなら信号無視無視無視!」
「結局轢かれるし……」
「……信号無駄?」
「アカンがな」


-----解説-----

これは2002年の春に書いたもので、授業用の作品です。
条件は
1.「会話だけで進める」もしくは「会話メインで進める」
2.会話は男女間であること。
3.「笑い」をテーマに。
4.原稿用紙2枚以内。

という、笑いの「わ」の字どころか「w」さえ知らない私とては苦痛な課題で…………ごっつノリノリでした(ぉぃ
今見ると恥ずかしい限りで、男性と女性の会話なんですが、キャラクター性が自分でも把握できていない、ふらついた印象を与えてしまいますね。
ネタの寒さ自体もたいそうなモンです。
個人的には「その2」のガリガリ君から信号無視までがお気に入り。
信号無視無視などは高校時代の友人のネタで、信号無駄はその友人との会話で突発的に出てきたネタです。
「その1」は完全にオマケで、邪道ボクシングという阿呆な文字ネタが思い浮かんだから書いただけです。
今思い出しましたが、その1はもっとちゃんとしたネタだったんですが、原稿用紙2枚ではなく3枚必要だったため、泣く泣くこのようになってしまったのでした。残念。