長い坂道

 自転車をこぐ。小さな足でペダルを踏み、急な坂道を自転車で駆け上がる。
 長い長い坂を上って、桜の並木を横に見て。息を切らせててっぺんに着くと、満足げな顔で振り返る。
 眼下に広がるのは、百メートル以上ものぼってきた坂道と、自分の町。遠くに、二駅向こうの電波塔も見える。少年は満足げな顔のまま、友達の住む団地へと自転車をこいだ。

 自転車をこぐ。小さな足でペダルを踏み、急な坂道を自転車で駆け下りる。
 長い長い坂を下って、葉桜並木を横に見て。涙をこらえて坂の下に着くと、寂しげな顔で振り返る。
 頭上に広がるのは、百メートル以上も下ってきた坂道と、今日限りの自分の町。遠くに、思い出ばかりの空き地が見える。少年は寂しげな顔のまま、両親の待つ車へと自転車をこいだ。

 自転車をこぐ。大きな足でペダルを踏み、急な坂道を自転車でよじのぼる。
 長い長い坂をのぼって、枯れた桜を横に見て。息も絶え絶えてっぺんに着くと、懐かしげな顔で振り返る。
 眼下に広がるのは、百メートル以上ものぼってきた坂道と、生まれ育った過去の町。二駅向こうの電波塔は、大きなビルに変わっていた。青年は懐かしそうな顔のまま、町を眺め続けていた。
 しばらくたって。
 自転車をこぐ。大きな足でペダルを踏み、急な坂道を自転車で駆け下りる。
 長い長い坂を下って、並木の途中でブレーキをかける。思い出ばかりの空き地には、一つ小さな家が建っていた。青年は自転車を降りると、駆け寄ってくる子供を抱き留めて笑顔を浮かべた。
「ただいま」