アラニアの世界には、いくつかの創世伝説が残されています。
ここで紹介するのは、その中でも最も古い時代、神が生まれる時の神話です。
正確には伝説と言った方がいいでしょう。
果たしてこの伝説が、本当にアラニア創世の伝説なのかどうかは、誰も知りません。


 最初に鳥がいた。
鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、翼を持つ竜が生まれた。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、天と石が生まれた。
翼無き天は、石の上に座した。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、歩く花が生まれた。
花は種子を蒔き歩き、石は肥沃な大地となった。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、猫が生まれた。
猫は風を生み、肥沃な大地は動き出した。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、黒い魚が生まれた。
魚は水を吐き、水は川となり海となった。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、精霊が生まれた。
精霊は万物に宿り、大地に生命が満ちた。
 
次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、炎が生まれた。
朽ちたものは燃え、新たな生命を育んだ。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、獅子が生まれた。
獅子は土を纏い、全ての獣を従えた。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、二羽の鳥が生まれた。
鳳凰は炎を纏い、始鳥に死を告げた。

 次に鳥は一つの卵を産んだ。
一つの卵からは、白い兎が生まれた。
兎は雪を着込み、世界を白く浄化した。

 最後に鳥は一つの卵を産み、死んだ。
一つの卵からは、狼と卵が生まれた。
狼は、創世の終焉を告げ、始鳥の子らは世界を育てた。

 終狼は空に浮かびし卵に吼えた。
いつか生まれ来る、始まりの鳥を懐かしんで。
いずれ終わりゆく、新しい世界を憂いて。